ハーバード大学マイケルサンデル教授の白熱授業が面白い。 [教育・科学・技術]
正義とは何か。このテーマを身近な問題に置き換え、難しい哲学を学生たちと熱い討論を重ねながら一緒に考えていく。
NHKの特集番組で知っていたが、本屋でたまたまサンゲル教授のこの本が目に止まり、思わず買ってしまった。
最初は「正義」というタイトルに違和感を多少覚えたが、読んでいるうちに、人類がもっとも苦悩しつづけたテーマであり、それは今なお答えが見出せない究極のテーマであることを、あらためて知らされた。
「正しい行いとは何か。」 その問い掛けが次のように衝撃的である
「もし1人の人を殺せば、5人の命が助かる場合、あなたなら、その1人を殺すべきか。」
一瞬、思考停止してしまいそうな問いが、ポンポン出され、問題の本質に迫っていく。
何を理想とするか、何を幸福とするか。立場、状況、環境によって大きく変わってくる。どれが正しくて、どれが間違っているのか。視点を変えれば、まったく逆転してしまうこともある。そんなことも、次々に展開され、思考の迷路の中に導かれていく。
人が生きている社会の中では、物理や化学のように1つの法則で答えに到達できるものではない。求める理想が異なれば、当然方法論も変わってくる。
ここでは、アリストテレス、ロック、カント、ベンサムなどの古今の哲学者たちの概念で、身近な問題を解きほぐし、そこで生じる悩ましい課題を浮たださせ、さらに討議を進めていく。討議をすればするほど、次々に課題が現れ、実にモグラたたきをやっているかのように、結論は見えてこない。
しかし、サンゲル教授は、こうした議論を続けることが重要であるという。お互いの理解が深まり合う可能性があるからだ。
最後に、道徳と政治の関係が語られていたが、難しい問題ながらも、こう締めくくっている。
「道徳に関与する政治は、回避する政治よりも希望に満ちた理想であるだけではない。公正な社会の実現をより確実にする基盤でもあるのだ。」
とても、難しい言い回しであるが、つまり、法律や規則だけでは理想の社会をつくることは困難で、宗教や道徳、倫理、奉仕の精神などそうした概念も併せ持って進めていくことも必要と指摘しているのではないか。
最近、禅の精神、武士道など日本の古い精神論が見直されている。先人達がより良い社会を築くために考え抜いたノウハウが、実はいっぱい詰まっており、哲学でなかなか解決できないようなヒントも、そこにあるかもしれない。サンゲル教授は、そうした面に目を向けて、哲学をあらゆる観点から考えることの重要さを訴えているように思えた。
しかし、哲学は難しい・・・。
これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
- 作者: マイケル・サンデル
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/22
- メディア: 単行本
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