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終戦記念日、ドラマ「歸國(きこく)」で思うこと。 [社会・生活]

 終戦日を迎え、各テレビ局で「戦争」をテーマにした番組がいくつか放映された。昨日放映された倉本聡脚本、ビートたけし主演の歸國(きこく)は、南方の海で玉砕した英霊たちが、終戦から65年後の8月15日、終電が走り去った東京駅にあらわれ、夜明けまで思い出の地を巡るという設定で、「悲惨な戦争」と「浮かれている現代日本」の両極の狭間で非常に考えさせられるドラマであった。自分の将来を犠牲にし、日本の平和と繁栄を信じて散って行った若者達には、現代の日本がどう映るのか。彼らの実現できなかった夢、軍隊の中で自分の意思に反してとった行動への悔いなど、さまざまな想いと悲痛な叫びが、丁寧な描写と俳優たちの熱演で、我々の心に強く響かせてくれた。
 
 その中で、「今の日本は豊かになったが、本当に幸せになったのか、自分たちの知っている日本とはまるで違う姿だ。」と投げかけている。まさに、いまの日本人が真剣に考えなければならない課題である。戦後の日本は、貧しさからの脱却を目標に懸命に働き続け、やがて世界でも有数の経済大国にのし上がった。それはそれで悪いことではない。しかし、カネでほしいものはすべて手に入り、日本人の価値観が大きく変わってしまったことは事実である。特に社会的概念や生活習慣の考え方が、欧米(むしろアメリカ)の合理的な思想に影響され、昔ながらの非合理的な日本の慣習がズタズタになった。そんなところにドラマのメスが入り、我々をハッとさせたような気がする。

 経済発展のうねりは、合理化、効率的社会を進める半面、経済価値で置き換えられない無駄な概念をことごとく切り捨てていった。経済評論家が「強いところに経済資本を集中して戦わなければ日本はダメになる。もっとグローバルに、そして効率化を図るべきだ。」とよく話す。たしかに、目的達成のためにはうなずける論理であるが、これは経済だけの狭い世界で捉えている考え方だ。一時は国家戦略に「選択と集中」というキーワードがメインに挙げられていた。裏返せば「選択されず、予算が配分されない」という不幸な現実も存在するということだ。それが今日の日本の負の姿を象徴しているのではないか。

 経済の発展、競争に勝ち抜くことはすべて平和や豊かさを得られるものではない、むしろ「心の安定」や「心の豊かさ」と相反する性質なものかもしれない。西洋でもあまり勝ち組でないイタリヤや南米諸国など、外側から観ると結構楽天的で、日本人にはうらやましい国家に観えることがある。つまり、カネだけが豊かさの本質はないということだ。

 最近の一般の調査では、「日本は豊かであるけど、将来の不安ばかり、あまり幸せを感じない。」と答える人が最も多いという結果が出ている。
 以前、お年寄りと話をした時の事であるが次のようなことを語られた。
 「昔の日本は貧しかったけれど、貧しいなりの幸せがあった。とにかく、バナナやパイナップルなんて病気にでもならないかぎり食べられなかった。だけどそんなに贅沢を望まず、それぞれが身の丈に合った生活をし、それを外すような者は皆で叱かったものだ。でも頑張っている者に対しては皆が寛大で、大学などの高等教育を受けたり、世の中で名をあげたりすれば、地域のみんなが家族同様に応援したものだ。」と話してくれた。叱る事もあれば応援することもある。それは地域社会全体が住民ひとり一人をよく見て心配し、みんながうまく生きられるようなセーフティネットが構築されていたのはなかろうか。

 それは、あらゆる自由に恵まれている現代人にとって、現代社会は「しがらみ社会」であり、「閉塞社会」で鬱陶しい存在にしか映らないかもしれない。いま、セーフティーネットづくりが要求され、国や地方行政を中心に構築が進められつつあるが、かつての情の熱いものではない。どちらかで言えば行政の乾いた組織論でつくりあげている。その乾いたしくみで、社会や家族の絆を再生することができるだろうか。結局、日本人の心が乾いたままでは、潤いのある社会づくりは到底無理と危惧してしまう。

 今回のドラマで言いたかったことは、「日本人の心の再生」ではないだろうか。
たとえ世の中が変わっても、日本人の魂、心は不変であってほしいと、そして人、家族、社会を大切にする国であってほしいと英霊たちは思った違いない。
 ドラマの中で、昔の恋人が、近頃の子供達は歌も歌わず、下を向いていたり、携帯に夢中になっていたり、すっかり変わってしまったと嘆いて英霊に話すと、彼はあきらめてはいけない、また子供たちが歌を歌うような国にしてくれと叫びながら、別れを告げて行った。まさに、彼らは自分たちが信じた日本にもう一度再生してほしいと願っているのだ。生きている我々はそうした意思を継いでいかなければならないと強く感じるものであった。

 終戦記念日によく総理大臣が靖国神社へ参拝するかどうか問題になるが、そんなことよりも、せめて記念式典の時間は各テレビ局はすべての番組を中止して、NHKと同様に式典の模様を中継し、日本人全体が、戦争で無くなったすべての人達に追悼と敬意を表すべきだ。そして、我々が日本の国を恥ずかしくない国にする努力を誓うべきであろう。そうすれば、英霊をはじめ犠牲になった方々も安心できるのではないだろうか。
歸國

歸國

  • 作者: 倉本 聰
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2010/07/02
  • メディア: 単行本

タグ:終戦
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